さば 雲

友がひとりまた一人消えて思い出だけ残る。過ぎてしまえばこの世は残り少なく、今頃ひとりじたばたしている 。

トットちゃん

 萎れた花

 鉛筆  1986年作


 「楽しいこと、不思議なこと、ワクワクすること」にあふれていた小学校生活。でも3年生の頃には戦争で食べものがなくなり、愛犬は軍用犬にするため徴発されていきました。「寒いし、眠いし、おなかがすいた」が口癖だったと言います。「一日の食料は大豆15粒だけ。本当にそれしかないんです。朝、母から『お水をいっぱい飲むのよ』と煎った大豆を渡されました」
 やがて大豆も配給されなくなり、味も栄養もない海藻麵ばかりになりました。「栄養失調で体中におできができ、何本も爪の間が膿んで、ズキンズキン。本当に痛かった」
 泣いて歩いていると、警官に「おい、こら」と呼ばれました。
「『おまえは恥ずかしくないのか。戦地の兵隊さんのことを考えてみろ』って。戦争って泣いてもいけないだと思いました。
 今も悲しくなる思い出があります。学校の最寄り駅。「バンザイ!」と出征兵士を見送る人に出会いました。日の丸を振ると、お駄賃にスルメの足を一本くれました。
 「口に入れたら柔らかくなってすごくおいしい。それで私、『バンザイと言うとスルメがもらえる!』と思っちゃたんです。それからはバンザイの声を聞くと、走って行って旗を振りました」
 おとなになり、そのことを悔やみました。 
 「もし兵隊さんが旗を振る私を見て、『あの子のためにもたたかおう』と自分に言い聞かせて亡くなったのなら、子供の私にも戦争責任はあるんじゃないかって」……


 昨年末の「徹子の部屋」でタモリさんが今年を「新しい戦前」になるのではと言いました。「その予想が、これからもずっと外れてほしい」と。
 「戦争は気づかないうちに、あっという間に始まります。今も気をつけていないと、ある日突然…ということがある。今テレビでも感じますが、みんなが自由にものを言えなくなるのが怖い。そんなの嫌でしょ、絶対に」


 ☆黒柳徹子「続 窓際のトットちゃん」発売インタビュー
 ※某新聞記事より