さば 雲

友がひとりまた一人消えて思い出だけ残る。過ぎてしまえばこの世は残り少なく、今頃ひとりじたばたしている 。

 すすき

  水彩 + 色鉛筆 


酒注ぐ音は とくとくとく だが
カリタ カリタ と聴こえる国もあって


波の音は どぶん ざ ざ ざァなのに
チャルサー チャルサー と聴こえる国もある


澄酒を カリタ カリタ と傾けて
波音のチャルサー チャルサー 捲き返す宿で


一人 酔えば
なにもかもが洗い出されてくるような夜です


子供の頃と少しも違わぬ気性が居て
悲しみだけが ずっと深くなって


 ■茨木のり子詩集.岩波文庫より
  ※詩「波の音」