習 作
Ý の 像
御伽話
昔々 あるところにトトとガガと、娘の嫁に行く支度を買いに町へ出で行くとて戸を鎖し、誰がきても開けるなよ、はあ と答えたれば出でたり。昼のころヤマハハ来たりて娘を取りて食い、娘の皮を被り娘になりておる。夕方二人の親帰りて、おりこひめこ居たかと門の口より呼べば、あ、いたます、早かったなしと答え、二親は買い来たりしいろいろの支度の物を見せて娘の悦ぶ顔を見たり。
次の日夜の明けたる時、家の鶏羽ばたきして、糠屋の隅っ子見ろじゃ、ケケロと啼く。はて常に変りたる鶏の啼きようかなと二親は思いたり。それより花嫁を送り出すとてヤマハハのおりこひめこを馬に載せ、今や引き出さんとするとき また鶏啼く。その声は、おりこひめこを載せなえでヤマハハのせた、ケケロと聞ゆ。これを繰り返して歌いしかば、 二親も始めて心づき、ヤマハハを馬より引き下して殺したり。それより糠屋の隅を見に行きしに娘の骨あまた有りたり。
〇 糠屋は物おきなり。
〇ヤマハハ=山姥、奥山に棲む老女の妖怪、山に住み、人を食らうと考えられている。
■柳田 国男. 遠野物語. 青空文庫. から
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