さば 雲

友がひとりまた一人消えて思い出だけ残る。過ぎてしまえばこの世は残り少なく、今頃ひとりじたばたしている 。

犠 牲

 枯草、轍、蛙、…

 色鉛筆 + 水彩  205 x 230 ㎜ (リメイク作品)


天災や人災は、何の意味もなくただ起こるのだ。太陽が悪人をも照らすように、万有引力が善人をも落花させるように、どんなに「良い人」でも津波や地震で殺されるのであり、同じく車に轢かれるのであり、路上で刺されるのである。酒酔い運転者は「悪い人」を選んで車をぶつけるわけではなく、刃物で通行人に切りかかろうとする男は「善い人」を避けて刺すわけではない。


この人生どう転んでもろくでもないところだと確信すると、とても気が楽になるのだ。いかに一生懸命努力しても報われない場合があること、いかに狡く立ち回っても報われる場合があることを確信すると、ほっと落ちつくのだ。蹴とばされても、張り倒されても、それでもなお生きることはなかなか味があるじゃないか、と安心するのである。


 ■中島義道「善人ほど悪い奴はいない」角川新書より