さば 雲

友がひとりまた一人消えて思い出だけ残る。過ぎてしまえばこの世は残り少なく、今頃ひとりじたばたしている 。

沖縄の空

 オスプレイ、赤瓦、シーサー、…(イメージ)

 水 彩 + 色鉛筆  19ⅹ 24 cm


人間が端的に求めるものは「平和」よりも「安全保障感security feelinng」である。人間は老病死を恐れ、孤立を恐れ、治安を求め、社会保障を求め、社会の内外よりの干渉と攻撃を恐れる。人間はしばしば驚異に過敏である。しかし、安全への脅威はその気になって捜せば必ず見つかる。完全なセキュリティというものはそもそも存在しないからである。
「安全保障感」希求は平和維持のほうを選ぶと思われるであろうか。そうとは限らない。
まさに「安全の脅威」こそ戦争準備を強力に訴えるスローガンである。


まだ戦争が始まっていないという意味での平和な時期の平和希求は、やれないわけではない。
しかし、戦争反対の言論は、達成感に乏しく次第にアピール力を失いがちである。
平和は維持であるから、唱え続けなければならない。すなわち持続的にエネルギーを注ぎ続けなければならない。しかも効果は目に見えないから、結果によって勇気づけられることはめったになく、あっても弱い。したがって徒労感、敗北感が優位を占めてくる。
そして、戦争の記憶が遠のくにつれて、「今はいちおう平和じゃないか」「戦争が起こりそうになったら反対するさ」という考えが多くの者に起こりがちとなる。


 ◆中井久夫「戦争と平和 ある観察〔増補新装版〕」より